「図書館 この素晴らしき世界」(藤野幸雄著:勉誠出版刊)を読んでいたら、突然、梶山季之が出てきた。
「第五章 蔵書コレクション」から引用する。
「寄贈資料でヨーロッパの図書館がうるおったのは、寄贈できるまとまったコレクションが存在したからであった。
十八世紀以降のイギリスでは、貴族がその主役であった。家のコレクションは、歴代にわたって受け継がれ、そこにはさまざまな美術品や図書・文書の集積があった。大英博物館などは、これら貴族の蔵書により拡大されていった。
日本では専門家の蔵書は一代かぎりのものが多く、収集した図書の価値を知っているのは当人だけであり、次の世代に引き継がれることはめったにない。
本人が亡くなると、古本屋が価値のあるものを引き取ってゆく。これを「背取り」といい、梶山季之の小説『せどり男爵数奇譚』は、古書にたいする情熱をかけた人々を描ききっていた。
ヨーロッパでは、まとまった蔵書は、競売にかけるのが普通であり、二十世紀前半までは図書館がそれを購入することが多かったのである。」(P.88)
早速、図書館で『せどり男爵数奇譚』(梶山季之著:夏目書房刊)を借りてきた。
梶山季之といっても「と金紳士」くらいしか読んだことがない(笑)。
「古書にたいする情熱をかけた人々を描ききって」いるのかどうかはよくわからないが、面白かった。
解説を出久根達郎が書いている。
「『せどり男爵数奇譚』は、月刊誌「オール讀物」の1974年1月号より6月号まで連載され、その年の7月に単行本化された。版元は桃源社である。本書は発売当時から世評高く、古本屋でも店に並べれば、すぐに売れた。
そして、あれあれというまに、古書価が高くなっていった。稀覯本でもないのに、いまだに古本価値が高い、まことに希有な一冊である。
古書界に材を取ったわが国最初の本格的な小説、という理由もあろう。何より面白い、ということがある。しかし私が思うに最大の理由は、読者のそれぞれが、本書の主人公に自分の分身を見たからに違いない。」(P.323)
桃源社版は高そうなので、夏目書房版をamazonで購入した。すでに読み終わっているのだが。
私は、こんな感じで、興味にまかせて次から次へと手を出しているだけで、稀覯本や初版本を集めようという趣味はない。その代わり、本のために人殺しをする心配はなさそうだ。
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